2009年06月30日
惜別
「お早うございます」
「おう、今日は地下5階のコンクリート打ちだから、ミキサー車の搬入には
気を付けてくれよ。それと、2階の枠組みを点検に行く時は、足場が悪いから
注意するように。
別に重要な引き継ぎ注意点は無いから、しっかり頼むよ、以上」
朝8時に、夜勤明けの当直員と交替する。
太がガードマンのバイトを始めて今日で1週間になる。
勤務は3交代制で、今日は昼の勤務だ。
仕事と言えば、大手町に建設されてるビルの見回りや交通整理で
昼間は主に建設現場へ出入りする車の誘導等が主で
夜勤は、2時間ごとの現場の見回りが義務ずけられている。
服を着替えて交替すると、建設作業員やとび職の人たちと一緒に
朝のラジオ体操から一日が始まり、夕方5時まで勤務した。
勤務を終えた後は、作業を終えた人達と近くの大衆食堂で酒盛りをし、
山手線を乗り換えてアパートへ帰った。
アパートへ帰ると、銭湯で汗を流し、立ち食い蕎麦屋か屋台のラーメンで
夕食を済まし、後は寝るだけだ。
そんなことの繰り返しで、学校にも行かず、安藤達とも疎遠になって行った。
たまに学食で顔を合せ、麻雀に誘っても、最近は断られることが多く、
夜は時間をもてあますがすることもなくラジオを聞く毎日だ。
今さら学校に行ったところで単位が埋まるわけでもなく、
音楽活動に興味を失った今、ギターを弾く気にもなれない。
級友達とも疎遠になり、たまに新宿で井上に会うことだけが
今の太にとって東京で生きている証になっている。
音楽の才能が無いことを嫌と言うほど知らされた太は
東京で生活することが無意味に思われてきた。
このままいけば留年は確実だし、母がそれを知れば、
どんなに悲しむだろう。
少ない給料の中から仕送りをして、無事に卒業することだけを願ってる
母の顔を思い出す度、心が疼いた。
夕暮れ時、路地裏を歩いている時に聞こえてくる家族の笑い声や
何処からとも漂ってくるカレーの匂いを嗅ぐと
無性に家が恋しく、飛んで帰りたくなる。
このままずっと東京暮らしを目的もないまま続けていたところで
流されていくだけだろう。
卒業して、会社に縛りつけられ、それなりの生活の保障は約束されるだろうけど
自分にはそれが出来ない事は解っていた。
確かに、この先頑張って真面目に学校生活を送り、それなりの会社へ就職し、
波風の少ない暮らしをしていけるだろうけど、何かが違う。
たとえ、音楽活動の夢が破れ去ったにしろ、自分が住める世界がある筈だと思う。
無性に順子に会いたくなった。
この時間なら彼女は部屋にいるだろう。
今からなら地下鉄に乗っても30分もあれば着ける。
新しい下着に着替えると、彼女の元へ向かった。
2度ほど遊びに行った部屋のチャイムを押すと、錠を下ろす音が聞こえ
彼女が顔を見せた。
「どうしたん太、突然」
「いや、急に会いたくなって」
「自分から会いに来るなんて、どんな風の吹きまわし?
うちは嬉しいけど」
部屋に入ると、食事中なのか、テーブルの上にはビールと
野菜炒めや海老フライが載っている。
「ご飯食べた?」
「立ち食い蕎麦で済ませた」
「ビール飲むやろ?」
「うん貰う」
「ちょと待ってて、ハムエッグ作るから」
前回来た時も驚いたのだが、彼女の部屋にはテレビも有り
冷蔵庫まである。
一番驚いたのが風呂もあることで、余程沢山仕送りを受けてるのだろう。
「夕食は自分で作るのか?」
「当たり前やない、海老フライだけはスーパーで買ったけどね」
「いつも自分で?」
「そうよ、外食はあんまり好きじゃないもん、
独りで外食するって勇気がいるよ」
「そんなもんかな」
「男の人は一人でも大衆食堂に行けるけど、女の子は
少し恥ずかしいよ、だから出来るだけ自分で作る」
冷蔵庫から缶ビールを取り出して太のグラスと自分のグラスへ注ぎ
「乾杯、太が自分から訪ねてくるなんてどうしたんよ。
何かあった訳?」
「いや、急に順子に会いたくなって」
「うちは嬉しけど、太らしくないなぁ」
「どうしてだよ、迷惑か?」
「馬鹿、ひねくれもん、会いたかったに決まっとるやろ」
順子が抱きついてきた。
「ちょっと待てよ、それより俺は帰ろうかと思ってる」
「帰るって、九州に?」
「うん、このままだと中途半端だしな。帰って手に職を付けようかと思ってるんだ」
「大学はどうするのよ、卒業しないの?」
「卒業してサラリーマンなんかなりたくないしな」
「まぁ、判るような気がする。あなたって、いつも夢を追いかけてるでしょう。
何かを追いかけてないと気が済まないのよね、
普通の人みたいに、妥協しないでしょう?
だからいつも、どこかクールな部分があるよ」
「そんなことないよ、俺の能力は判ったしな。
ほんとは、歌を歌っていけたらと思って東京に来たまでさ」
「うちもそう思ってたよ、高校との時は、学園祭やコンサートで
スターだったもんね、だから太はプロになると思ってた」
「俺も、少し自惚れてたんだ、所が、東京に来てみれば
俺ぐらいの腕の奴はゴロゴロしてるもんな。
レベルが全然違うって、すぐに判ったよ。
練習や、努力で頑張ったって、こればかりは感性の問題と
才能だからな」
「それで、帰って何をするの?」
「まだ決めてないけど、料理を勉強して店を持ちたいなと思ってる」
「料理に興味あるの?」
「料理と言うより、小さなライブハウスみたいな感じの店を
持ちたいなと思ってるよ」
「そのほうがいいかもね、太には。それで何時帰るの?」
「一週間もしたら何もかも片付くと思う、学校への書類なんか
郵送すればいいしな」
「じゃぁ今夜が最後?」
「そうだな」
「淋しくなるね太が居ないと。でも仕方がないよね、太の為には」
「九州で会えるじゃないか」
「そうよね、今夜は飲もうよ」
冷蔵庫から氷を出し、高級そうな瓶を出してきて水割りを作りだした。
今まで飲んだ事もない、いい香りがして
「これは何だよ、いい香りがするけど」
「ブランデーのへネシーよ、父の頂き物」
「こんなの飲んでるの?高級なんだろ?」
「そうね、何万円もするらしいけど、関係無いよ、自分で買った訳じゃないから。
それより、今日は最後までしてくれるよね」
「順子はそれでいいのか?」
「何云ってるの、いつも途中迄だし、太の想い出を刻みつけたいよ」
心の中で、今日だけは許してくれと麗に謝りながら、抱き寄せた。
激しく唇を求め、二人とも全裸になってお互いを求め合った。
順子の吐く息が激しく、胸の蕾を甘く噛むと、隣の部屋に聞こえるんじゃないかと
思える位の喜びの声を上げた。
蜜壺からはシーツが濡れるほど溢れだし、指を入れると、腰を浮かせてきた。
足を開いて、太のロケットを一気に突入させると、順子の口から
「痛ーい」と声が出たが、太はかまわず順子の中を飛び続けた。
暫くすると、痛がって苦悶声を上げていた順子の口から
違う音色が流れ出し、両足が太の腰を締め付けてきた。
順子の顔が、苦悶の表情から泣いているような顔に変わり、
唇が開いて呼吸が荒くなってきた。
太のロケットも益々膨張して、大気圏へ突入し始めた。
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